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黒船 -夜明け- 新国立劇場 [オペラ]2008-02-23 [オペラ アーカイブス]

 誰も云ってくれないからだろうけれど、プログラムの一番上に「世界に誇るオペラパレスへようこそ」って平気で書けてしまう神経には恐れ入るしかない。ご丁寧に10周年の記念ロゴと「オペラパレス」のロゴまで入れてしまって・・・。とっても恥ずかしい、とは思わないらしい。

 若杉弘(73歳)が新芸術監督に就任しての初仕事は、山田耕筰の歌劇「黒船-夜明け-」の完全上演である。演出は大御所の栗山昌良(82歳)。そして歌唱指導の畑中良輔(87歳)。戦後の歌劇上演の生き字引による完全上演?といったところだろうか。老人パワー炸裂と云いたかったが、さすがに息切れしてしまったような部分もあって、楽しめたり楽しめなかったりであった。

 畑中先生の「音楽青年誕生物語」には、初演のことを「日本のグランド・オペラの礎がここに印された」と書かれており、「のちに大女優となった杉村春子が姐さんの役で絶妙な演技を見せて、歌ともども話題をさらった」とある。それぞれ名演だったようではあるが、古今の作曲家をみても、初演から大成功というのは稀で、再演によって完成度を高めていく場合が多いようだ。戦争によって、そうした道を絶たれたことは作品のみならず、日本のオペラにとって痛手だったに違いない。念願のオペラ専門の劇場で、日本初のグランドオペラの上演を果たす。関係者の喜びはいかばかりかと、そのことを考えただけでも心が高鳴った。

 山田耕筰のオペラというと苦い思い出がある。1981年が天使にとってのオペラ元年で、ドレスデン国立歌劇場、ミラノ・スカラ座の両歌劇場の初来日公演に、すっかり魅せられてしまい、もっとオペラが観たいとチケットを買い求めたのが、二期会が上演した山田耕筰の幻のオペラ「香妃」だった。山田耕筰自身は完成できなくて、團伊玖磨による補作による上演である。そのあまりのつまらなさ、音楽と演出の陳腐さに辟易とさせられて、その後何年かはオペラを観に行かなかったのである。その時の演出家も栗山昌良だったはずである。

 この「黒船-夜明け-」という作品は、最初シカゴでの初演を画策していたようで、台本作家はパーシィー・ノエルというアメリカ人。結局、紀元2600年の奉祝オペラとして1940年11月25日に東京宝塚劇場で初演されたらしい。外国での上演を目指していたために、人間関係などを描いた「序景」があったが初演時からカットされ、今回ようやく陽の目を見ることになたっという。

 音楽はリヒャルト・シュトラウスばりとよく云われるようだが、長崎がプッチーニの「蝶々さん」ならば、下田は山田耕筰の「唐人お吉」だ!というくらいの意気込みだったのか、尺八、三味線、和太鼓のど日本人ならではの音楽を大胆に取り入れ、日本歌曲の研究の成果も盛り込んで、作曲者自ら英語台本を和訳し、苦労して造りあげたのだと思う。その苦心のあとがありあり。もっとも紀元2600年の委嘱作品として、同時代のリヒャルト・シュトラウスにオペラを発注することだって可能だったわけで、もし彼が引き受けていたら、世界中のオペラハウスで取り上げられるような名作が生まれたかもしれないのである。そんな別の未来を夢想しながら開幕を待った。もちろんシュトラウスは大規模な「祝典序曲」を寄せているのだけれど…。

 「序景」は、お吉と吉田が出会い惹かれあう物語を手際よく見せる。字幕にもその概略の説明があって親切であった。祭りの場面やら何やら、思いの外日本の美しい旋律に溢れていて、思わず涙ぐんでしまうほど美しい音楽に満ちあふれていた。なんという新鮮な響き。しかも68年も前に作曲されていたとは驚くほかはない。舞台上演としては、蛇足ぎみなのだが、この美しい音楽を紹介してくれてただけでも上演してくれた意義は十分にあったというべきであろう。

 さて舞台は、伊豆の長八の漆喰鏝絵を連想さえるような(実際にそれらしきものが登場)なまこ壁が両袖を飾り、中央には舞台奥に向かって急な傾斜舞台。舞台面には「尊王攘夷」「勤王佐幕」などと書かれていて、時代の気分をよく写していた。傾斜舞台の前部と同じく中央部が迫り上がったり、左右にスライドしたりと多くの場面を音楽を止めずに上演していたのに感心した。

 シンボルツリー?として巨大な松、銀杏、紅葉などが登場し、必要に応じてお茶屋、寺の居室の装置が袖から引き出されてくると言う寸法。さすがに小さな弁天堂だけの弁天島の場面は、嵐や海に飛び込むといった部分が表現し切れていなかったが、歌手の立ち居振る舞いやらなにやら、演出家の目配りが効いていてストレスを感じないのが何よりだった。例の蝶々夫人から比べれば天と地ほど違う!

 美しい音楽に助けれたおかげ?か、第一幕は何もかもがとっても美しくて大満足。ところが第2幕は、音楽的にも重要な二重唱やアリアが散りばめられているのに、音楽、演出、歌手それぞれに精彩がなく、第1幕までの好演が帳消しになるほどの退屈な場面となってしまった。新演出だと、必ずダレ場が生まれてしまうものだが、どうも今回の第2幕はそれだったようで、けっして長くない上演時間が、とってもとっても長く感じられて困った。

 第3幕は劇的に盛り上がる場面の連続なので、いくらか持ち直したが最終幕は意外に盛り上がらずに終わった。余韻にも乏しく、劇中の時代背景、初演時の時代背景、その後の日米の不幸な未来を21世紀から見通すという視点が、もっと明確にしめされれば感動的な物語になった気がするが、残念ながら、そこまではたどり着けなったような感じである。戦後に改訂するという作業があってもよかったのではないだろうか。

 日本語上演とはいえ、字幕はつくのだし、一部英語の歌詞というもの不自然だったような気がする。史実なのかどうかは知らないが、ヘタレの領事というのも共感できないキャラクターだった。吉田と領事の間で揺れ動くお吉の女心も十全に描かれているとは言えないし、なかなか感動できなかったというのも作品としての熟成が足りなかったのではないだろうか。山田耕筰にとっての最初で最後のオペラであったのだが、日本のオペラ上演状況では仕方のなかったことなのだろうと思う。

 歌手はお吉の腰越満美、お松の天羽明恵、姐さんの坂本朱の女声陣がいずれも好演。吉田の黒田博、領事の樋口達哉、盆唄/舟唄の福井敬などが印象に残った。畑中先生の歌唱指導が行き届いたのか語尾が不明瞭だったり、力みすぎな歌手も見られたが日本語は美しく響いた。もっとも言い回しが古すぎて、現代の観客には理解するのが難しい部分もあったように思う。

 沢田祐二の照明も工夫が凝らされ美しくドラマを盛り上げていたが、特筆したいのは衣裳の緒方規矩子の衣裳である。歌舞伎でもなく、新派でもなく、時代考証よりも現代人の思い描く幕末の風俗を美しく描き出すのに腐心したようである。新しい感覚に溢れているものの、衣裳が登場人物の性格まで表現するという日本古来の演劇の技法をアレンジしているのに感心させられた。

 お吉の衣裳の変化は、実は彼女自身の心の動きと連動しているのにドラマが動きだしてから気がついた。第3幕の第1場では、それまでの明るい色調の衣裳とちがって黒い地の着物。お吉の心に浮かんだ「悪の華」の象徴のような気がした。第2場は、吉田と領事に二股?かけるお吉らしく、左右で模様も色も違う凝った着物。さらに第3場は裾と袖にボカシの入った彼女自身の迷いを表現したものだと思えた。音楽が止まるわかけではないので着替えが大変だったと思うが、心配していた着物による所作も、まあまあで見苦しい部分がなかったのが何より。

 最終景はお吉を真ん中に領事と切腹した吉田を配し、背景の装置が沈んで星条旗が見えてくる構図なのだが、決まりすぎた構図でいて、実は何も伝わってこないのが困る。迫りが中途半端な沈降なので装置の上部が客席からは見えてしまい、演出家の意図をはかりかねた。さて新国立劇場のレパートリーとして定着するかどうかは微妙なような気がする。どうなんだろう。当然のことながらオール日本人キャスト、二期会、藤原歌劇団等適材適所のキャスティングだったようで、指揮者、演出家まで、ある意味最も望ましい新国立劇場の姿だったのかもしれない。当然のことながら、日本人だから合唱団の扮装もよく似合う。「椿姫」の背伸びして着飾ったダンスよりは、浴衣がけで盆踊りの方が素敵に思える。漁師の役が、六尺褌に袢纏姿で登場。声楽家らしい髭面で太った体型だと「蘇民祭」のポスターみたいで笑えた。笑えたのはそこだけ。もう少し笑いがあれば作品に幅が出ると思う。

【原 作】パースィー・ノエル(「Black Ships」)
【訳編・作曲】山田 耕筰

【芸術監督】若杉 弘

【指 揮】若杉 弘
【演 出】栗山 昌良
【歌唱監修】畑中 良輔

【美 術】松井 るみ
【衣 裳】緒方 規矩子
【照 明】沢田 祐二
【振 付】小井戸 秀宅
【舞台監督】菅原 多敢弘

2月23日
【お吉】 腰越 満美
【お松】 天羽 明惠
【姐さん】 坂本 朱
【吉田】 黒田 博
【領事】樋口 達哉
【書記官】 近藤 政伸
【伊佐 新次郎】勝部 太
【町奉行】大久保 光哉
【第一の浪人/漁師】志田 雄啓
【第二の浪人/漁師】大塚 博章
【第一の幕吏】 倉石 真
【第二の幕吏】 原田 圭
【火の番】二階谷 洋介
【盆歌/舟唄】福井 敬

【合唱指揮】三澤 洋史
【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京交響楽団


2008-02-23 23:37
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